飲食店の「ABC分析」|死に筋メニューを見極め、売上を最大化する
2025年10月30日

「どのメニューが本当に儲かっているのか、実はよく分からない」 「毎日、朝から晩まで必死に仕込みをしているのに、ほとんど月末になると利益がほとんど残らない…」
飲食店の経営者であれば、胸が締め付けられるような、こんな悩みを一度は抱えたことがあるのではないでしょうか。
私自身、駆け出しの途中で開いた小さなバルで、同じ壁にぶつかり、何度も悩んだ。満足に浸っていたのです。 でも、月末の締め作業で待っているのはいつも厳しい現実。 食材費と人件費を差し引いて、手元には雀の涙ほどの利益しか残らない…。 あの、自分の努力が報われない労働者感は、今でもはっきりと覚えています。
その最大の原因こそが、お客様だから良かれと思って残っていて、無数の「貢献度の低いメニュー」でした。
これは一時的に、会計士が使うようなちょっと難しい経営理論ではありません。 あなたの店のメニューという、いわば「選手」たちを、売上への貢献度というわかりやすい基準でシンプルにランク付けし、「どの選手をスターに育て、どの選手に見切りをつけるべきか」を明確にするための、おそらく実践的な戦略ツールなのです。
これから、私が現場で数々の飲食店のV字回復を目に当たりにしてきたリアルな経験もやりながら、どんぶり孤独の経営から脱却し、あなたの店の売上と利益を最大化するための具体的な手順と活用法を、一つ丁寧に解説していきます。
目次
1. メニューを売上高でA・B・Cのランクにみる
「分析」と聞いて、なんだか身構えてしまうかも知れませんね。ご安心ください。これは数学のテストではなく、あなたの店の「宝探し」のようなものです。まずは基本から押さえていきましょう。
「ABC分析」とは、もともと工場の在庫管理などで「重点的に管理すべきAグループ」「標準Bグループ」「優先度の低いCグループ」をために一時的に使われていた手法です。
やることは考えてシンプル。あなたの店の全メニューを、売上への貢献度が高い順にA・B・Cの3つのグループに仕えてください。 ただ、それだけです。 たったこれだけの作業で、これまで霞んで見えていた「利益の構造」が、くっきりと考えてきます。
具体的な手順は、以下の通りです。
- 分析期間を決めるまずは分析の土俵となる期間を設定します。 最低でも1ヶ月、できれば季節変動なども考慮できる3ヶ月程度のデータがありますと、より正確な分析ができます。
- メニューごとの売上データを集計する期間内の各メニューの総売上高を集計します。もしPOSレジを導入しているなら、この作業はボタン一つで完了するはずです。
- 売上高が高い順に並べる全メニューを、売上高絶対というような評価基準のもと、上から順に並べます。ここに、あなたの思い入れや好き嫌いを挟みません。
- 構成比と当然構成比を算出する各メニューが売上全体の何%を占めるか(構成比)を計算し、トップのメニューから順にその比率を足し算していきます(構成比)。
- A・B・Cの3グループに分類するこの当然の構成比を基に、最終的にランク分けです。
- Aランク(それなり): 売上収益構成比が70%までのメニュー群
- Bランク(見せ筋): 売上収益構成比が70%超〜90%までのメニュー群
- Cランク(死に筋): 売上収益構成比が90%超〜100%までのメニュー群
さあ、大変。Aランクに分類されたのは、どこかあなたが想像していた通りの、お店の看板メニューたちではないでしょうか。 それなりが、お歩いている店の屋台骨を支える大功労者。 目立つCランクには、驚くほど多くの品数が並んでいるはずです。
2. パレートの法則(80:20の法則)の応用
ABC分析を進めていくと、ほぼすべての経営者が、ある普遍的な法則の存在に気づき、驚きの声を上げます。それは「パレートの法則」、一般的には「80:20の法則」として知られています。
これは、「物事の成果の8割は、全体の2割の要素が起こっている」という、不思議な経験則。 例えば、「Webサイトのアクセスの8割は、2割のページに集中する」「仕事の成果の8割は、全業務時間の2割から生まれる」など、様々な場面で見られる現象です。
そして、これは飲食店のメニュー構成においても、まるで引力が働くかのように、ほぼ例外なく当てはまります。 実際に分析してみると、多くのお店で「売上全体の約80%は、全メニューの約20%の品目で稼いでいる」という事実が、興味深いほどくっきりと思います。
この売上を力強く引っ張る「2割の精鋭」こそ、結果分類したAランク、そして一部の優秀なBランクのメニューたちにはなりません。
私が以前コンサルティングで成功した、50種類のものメニューを早いイタリアンレストランの例が象徴的です。
なぜ、愛情という名前のもとに、全てのメニューに資源を割くことが、なんとなく経営の足を引っ張っているような痛みを感じさせられるからです。 あなたの情熱、スタッフの労力、厨房のスペース、貴重な運転資金—。 これらの限られた資源を、最も収益の出る「2割」のメニューに集中投下する。
3. やや(Aランク)メニューの強化
ABC分析によって特定されたAランクメニュー。 彼らは、もうお客様から熱烈な獲得をしている、あなたの店の「スター選手」であり、揺るぎない経営の基盤です。 売上をさらに伸ばすための最も確実な方法は、新しいヒット商品を血眼になって探すことはありません。 まずは、このスター選手たちをさらに輝かせ、誰もが絶対的な存在を認めて押し上げることです。
では、具体的にどうすれば良いのでお願いします。スターには、最高の舞台とスポットライトを用意してあげます。
- メニューブックの「一等地」を独占させるお客様がメニューを開いた瞬間、最初に悩みが吸い寄せられる場所。 そこに、スター選手の最も魅力的な写真を、誰よりも大きく配置します。 そして、「当店人気No.1」「これを食べずには帰れない!」といった、自信と熱意の見せた言葉を添えるのです。 多くのお客様は、心の中で「失敗したくない」と思っています。
- 客優先を上げる「セットメニュー」の主役となるAランクメニューには、お客様を引きつける磁力があります。この力を利用し、ドリンクやサイドメニューと組み合わせたセットを作ることで、お客様優先アップを自然に変えることができます。お客様にとってもお得感があり、注文への心理的な抵抗が和らぎます。
- これは、店が衰退していく典型的なパターンです。 Aランクメニューの品質低下は、常連客を裏切る行為です。
- スタッフ全員を「熱狂的な伝道師」にするホールスタッフは、お客様に最も近いセールスパーソンです。 「のおすすめは?」と聞かれた際に、マニュアル通りの手順ではなく、「それでは、本日ぜひ当店の〇〇を。実はこのソース、シェフが長くて5時間かけて…」と、そのメニューの物語を自分の言葉で語れるようにです。スタッフの熱意は、必ずお客様に伝わります。
以前、私が支援したカフェの例をお話ししましょう。Aランクだった「特製ガトーショコラ」の写真を、メニューブックの表紙に移動させました。広告費は1円もございません。せっかくで、その月の注文数は以前の1.3倍に跳ね上がりました。これが、データ的にはかなりの威力なのです。
4. 見せ筋(Bランク)メニューの育成
Aランクが不動のスター選手なら、Bランクは「次世代のスター候補」と「屋台骨を支える名脇役」が入り混じる、ポテンシャルの塊のようなグループです。爆発力はないものの、店の売上を着実に支えてくれている重要な存在。そして、ほんの少しのきっかけでAランクに駆け上がる「伸びしろ」を秘めています。
このBランクメニューへの戦略は「育成」に他なりません。そして、優れた指導者が選手の課題を見抜くように、私たち経営者も「なぜこのメニューはAランクになれないのか?」という原因を冷静に分析する必要があります。
- 価格が、お客様の「ちょっと高いな」というラインを微妙に超えているのか?
- 提供に時間がかかり、ピークタイムに注文しづらい雰囲気があるのか?
- ボリュームがありすぎて、他の料理との組み合わせを楽しめないのか?
- いや、そもそもメニュー名や写真だけでは、その本当の魅力が1ミリも伝わっていないのではないか?
こうした仮説を立て、具体的な育成プランを実行に移します。
- Aランクメニューとの「セット提案」で輝かせる 単体では目立たなくても、Aランクメニューと組むことで真価を発揮するメニューがあります。「Aランクの〇〇パスタには、このBランクのサラダが驚くほど合うんです!」と、スタッフが積極的に提案するのです。メニューブック上でも隣に配置し、セットでの注文を視覚的に促しましょう。
- 「今だけ」のプロモーションで試してもらう 「平日限定」「雨の日サービス」といった形で、特定の条件下で割引や特典をつけ、お客様に一度試してもらう「きっかけ」を意図的に作ります。ここで手応えがあれば、それは将来のスター候補である可能性が高いと言えます。
- ネーミングと説明文に「物語」を吹き込む 料理の価値は、味だけで決まるわけではありません。例えば、単なる「アジフライ」を、「今朝、〇〇漁港で水揚げされたばかり!奇跡の黄金アジフライ」と変えるだけで、お客様の心の中の価値は大きく変わります。こだわりの食材、手間暇かけた調理法、開発の裏話。そうした物語を、情熱的な言葉でメニューブックに綴ってみましょう。
- お客様を「最高の相談役」にする 特に常連のお客様は、あなたの店のことを誰よりも理解してくれている貴重な存在です。「いつもありがとうございます。実は今、このメニューを改良しようか迷っていまして…率直なご意見をいただけませんか?」と、思い切って頼ってみましょう。自分たちでは気づけなかった強みや、思わぬ改善のヒントをもらえることが少なくありません。
Bランクメニューは、いわばあなたの店の「潜在能力」です。一つでも多くのメニューをAランクに育て上げることが、店の総合力を底上げし、経営を安定させることに直結します。

5. 死に筋(Cランク)メニューの改善または廃止
さあ、いよいよ最もタフな決断が求められるCランクメニュー—通称「死に筋」—と向き合う時です。これらは、売上全体への貢献は微々たるものなのに、メニューブックの貴重なスペースを占拠し、厨房の棚に専用の食材を眠らせている、いわば「給料泥棒」のような存在です。
もちろん、手塩にかけて開発した我が子のようなメニューをリストから外すのは、断腸の思いでしょう。その気持ちは痛いほど分かります。しかし、この「死に筋」を感傷や惰性で放置しておくことは、店の体力を静かに、しかし確実に蝕んでいく行為に他ならないのです。
Cランクメニューへの処方箋は「改善」か「廃止」の二択のみ。その運命を分ける判断基準は、どこにあるのでしょうか。
「改善」で延命を試みるケース
- 熱狂的なファンがいる: 売上は少なくとも、「これがあるから来ている」というコアなファンがついている。
- コースの重要パーツ: 単品では出ないが、特定のコース料理の物語を構成する上で不可欠な存在。
- 圧倒的な利益率: 注文は稀だが、一食あたりの利益が非常に大きい。
- 店の広告塔: 見た目がユニークでSNS映えするなど、売上以外の広報的な価値がある。
これらの場合は即廃止ではなく、オペレーションの負担を減らす「改善」を模索します。調理工程を簡略化したり、使う食材を他の人気メニューと共通化させたりして、延命の道を探ります。
「廃止」という聖域なき改革
上記のような特別な理由がなく、以下の条件に当てはまるなら、もはや迷う必要はありません。勇気を持って「廃止」の決断を下すべきです。
- 月に数回しか注文が入らない
- 調理が複雑で、他の料理の提供を遅らせる原因になっている
- そのメニューのためだけに、ロスしやすい専用食材を仕入れている
メニューを減らすことに、恐怖を感じるかもしれません。「お客様の選ぶ楽しみを奪ってしまうのでは…」と。しかし、後述するように、Cランクメニューを廃止して得られるメリットは、あなたが失うものの何倍も大きいのです。これは守りのリストラではなく、未来のための「攻め」の改革なのです。
6. 貢献度の低いメニューが飲食店の利益を圧迫する
なぜ、売れていないだけのCランクメニューを、ここまで問題視するのでしょうか。それは、彼らが単に「貢献していない」だけでなく、見えないところで「積極的に利益を圧迫している」からです。彼らは、あなたの店を静かに蝕む「サイレントキラー」なのです。
具体的に、どのような害悪をもたらしているのか。その正体を暴いていきましょう。
- 悪魔のささやき、食材ロス 飲食店経営において、フードロスは現金をゴミ箱に捨てるのと同じ行為です。ほとんど注文されないメニューのために仕入れた専用食材は、鮮度が落ち、やがて廃棄される。この悲しい運命を辿ります。Cランクメニューが多ければ多いほど、あなたの店は毎日、着実にお金を失っているのです。
- 見えない人件費、管理コスト メニュー数が多ければ多いほど、在庫管理や発注業務は複雑怪奇になります。どの食材があとどれくらい残っているか、適切な発注量は何キロか。この把握と判断に、貴重な時間と人件費が溶けていきます。Cランクメニューを無くせば、この見えないコストも劇的に削減されます。
- 厨房のパフォーマンスを破壊する 戦場と化したピークタイムの厨房を想像してください。そこで、調理スタッフが普段ほとんど作らないCランクメニューの注文に対応する。レシピを思い出し、棚の奥から専用の調理器具を探し出す…。この一連の淀みが、厨房全体の流れを止め、Aランク・Bランクメニューの提供遅延という、最も避けたい事態を引き起こすのです。
- お客様の「選ぶ疲れ」と機会損失 「選択肢が多すぎると、人はかえって何も選べなくなる」—これは「決定回避の法則」として知られる心理現象です。魅力のないメニューが多すぎると、お客様は選ぶことに疲れ、結局「いつもの」に落ち着いてしまう。これは、店側が本当に食べてほしい逸品や、新しい体験をおすすめする絶好の機会を、自らドブに捨てているのと同じです。
私が経営していたバルでの実体験をお話ししましょう。30種類以上あったタパスを、ABC分析に基づいて断腸の思いで15種類に絞りました。スタッフからは「お客様が減ってしまうのでは…」と心配されましたが、結果は全員の予想を鮮やかに裏切るものでした。Cランクメニューの仕込みが無くなったことで、厨房のオペレーションが劇的に改善。Aランクメニューの提供スピードとクオリティが向上し、顧客満足度が上がった結果、売上は以前より15%もアップしたのです。この経験こそが、メニューは「数」ではなく「研ぎ澄まされた質」であるという、私にとっての揺るぎない信念となりました。
7. POSデータを使った簡単な分析方法
ここまでABC分析の重要性を熱く語ってきましたが、「理屈は分かったけど、分析作業が大変そう…」と感じている方もいるかもしれませんね。ご安心ください。もしあなたの店にPOSレジがあるなら、その心配は杞憂に終わります。現代の飲食店経営において、POSレジは単なる会計機ではなく、あなたの右腕となる超優秀な参謀なのですから。
現在主流のPOSレジシステムの多くには、このABC分析機能が、驚くほど簡単に使える形で標準搭載されています。
一般的なPOSレジでの分析手順は、本当に拍子抜けするほどシンプルです。
- 管理画面から「分析レポート」の類を探す
- 「ABC分析」を選び、分析したい期間を指定する
- 実行ボタンをクリックする
たったこれだけです。あとはシステムが全ての計算を自動で行い、各メニューが売上順に並べられ、A・B・Cランクごとに色分けされた美しい表やグラフを、わずか数十秒であなたの目の前に提示してくれます。
手計算なら丸一日かかるような地獄の作業が、コーヒーを一杯淹れている間に終わってしまう。もし、まだ昔ながらのガチャレジを使っているなら、この機会にPOSレジの導入を真剣に検討する価値は、十二分にあると断言できます。
もちろん、POSレジがなければ分析できないわけではありません。日々の伝票や日報からコツコツとデータを拾い、Excelなどの表計算ソフトに入力すれば、同じ分析は可能です。時間はかかりますが、自分の店の売上構造を、いわば骨の髄まで理解できるという大きなメリットもあります。まずは1ヶ月分、データを集計してみる。その地道な一歩こそが、データドリブン経営への確かな扉を開くのです。
8. 定期的なABC分析でメニューを最適化する
さて、一度目のABC分析を終え、メニューの最適化に成功したとしましょう。しかし、ここで満足してはいけません。なぜなら、ABC分析は一度やって終わりの「打ち上げ花火」ではなく、継続してこそ意味のある「基礎トレーニング」だからです。
お客様の好みは移ろい、季節は巡り、世の中のトレンドは目まぐるしく変わります。一度は完璧だと思えたメニューの力関係も、時間と共に必ず変化していきます。かつてのAランクメニューがBランクに陥落したり、Cランクに埋もれていた伏兵がBランクに急浮上してきたり。こうした変化の兆しを誰よりも早く捉え、常にお店を最高の状態に保つために、定期的な分析が不可欠なのです。
では、どれくらいの頻度で実施すべきか。 理想を言えば毎月のチェックですが、それが難しい場合でも、最低でも3ヶ月に一度、つまり季節の変わり目ごとには必ず実施しましょう。これは、もはや経営者の義務と言っても過言ではありません。
定期的な分析は、未来を予測する水晶玉のように、多くのことを教えてくれます。
- 新たなヒットの「芽」を発見できる Bランクの中でじわじわと順位を上げているメニューは、次なるスター候補の筆頭です。その芽を早期に発見し、プロモーションという名の水を注ぐことで、意図的にヒットを生み出すことができます。
- 人気メニューの「陰り」を早期に察知できる 不動のAランクだったメニューの売上が落ちてきたら、それは重大なSOSサインです。味が落ちたのか、競合に強力なライバルが現れたのか。原因を早期に究明し、手遅れになる前に対策を打てます。
- メニュー改定の「成功確率」が飛躍的に上がる 「前回、この施策でAランクの売上が10%伸びた」「Cランクの廃止でフードロス率が5%改善した」といったデータが、あなたの会社の貴重な資産として蓄積されます。これにより、勘や経験則に頼らない、再現性の高いPDCAサイクルを回せるようになります。
ABC分析は、まさに飲食店の「定期健康診断」です。年に一度の検診では手遅れになる病気があるように、お店の分析も定期的なチェックが命綱。この地道な取り組みこそが、10年、20年とお客様に愛され続ける、強いお店の土台を築くのです。

9. 飲食店経営の必須スキル
美味しい料理を作る「職人の顔」。お客様を笑顔にする「商人の顔」。これらが飲食店経営者に不可欠なものであることは、誰もが認めるところです。しかし、厳しい競争を勝ち抜いていくためには、現代の経営者には、もう一つの顔が求められます。
それが、「どの料理で、どのようにして儲けの構造を作るか」を冷静に考える、「経営者の顔」です。そして、その思考の根幹を成すのが、データ分析のスキルに他なりません。ABC分析は、その最も実践的で、効果的な入り口なのです。
このスキルを身につけた瞬間から、あなたの経営は劇的に変わります。
- 「感覚」という名の霧が晴れ、「事実」という名の地図を手に入れる 「最近、このパスタがよく出てる気がするな…」という曖昧な霧の中から、「このカルボナーラは、ディナー売上の40%を占める、絶対に外せない最重要メニューだ」という、揺るぎない事実に基づいた航海ができるようになります。
- スタッフが同じ地図を見て、同じ目的地を目指す 「社長の思いつきでメニューが変わる」のではなく、「このデータに基づき、我々はAランクに注力します」と論理的に説明することで、スタッフ全員が納得し、同じ方向を向いてくれます。それは、孤独な航海から、信頼できる仲間と進むチームでの航海への変化です。
- 未来の航路を描く、羅針盤となる ABC分析の結果は、日々の改善に留まりません。どのメニューに広告費を投下すべきか。次の新商品はどの価格帯で勝負すべきか。データは、不確実な未来という大海原を切り拓くための、最も信頼できる羅針盤となってくれるのです。
ABC分析は、単なるメニュー整理術ではありません。それは、あなたのビジネスを客観視し、論理的に意思決定を下すための「経営OS」を、あなた自身にインストールする、極めて重要な作業なのです。
10. データに基づいたメニュー改定
ABC分析で売上貢献度によるランク分けができるようになったら、ぜひその地図をさらに精密なものにしてみましょう。そのための手法が、「クロス分析」です。これは、ABC分析の結果に、別の重要な指標を掛け合わせることで、物事の解像度を上げていく分析アプローチです。
飲食店で特に有効なのが、「売上」と「利益(原価率)」という二つの軸でメニューを評価する方法です。これができれば、あなたはもう初心者ではありません。
なぜなら、ABC分析だけでは、「たくさん売れているけれど、実はほとんど儲かっていない」という、いわば「働き者貧乏」なメニューを見過ごしてしまう危険があるからです。そこで、各メニューの原価率も算出し、売上ランクと利益率ランクを組み合わせて、全メニューを4つのタイプに分類します。
- 売上Aランク × 利益Aランク まさに「金の卵を産むガチョウ」。最も売れて、最も儲かる、文句なしの看板商品。店の宝として、何があっても守り抜きましょう。
- 売上Aランク × 利益Cランク 売上は高いが、利益率が低い「集客の功労者」。このメニュー目当てのお客様は多いが、こればかり出ると店の利益は圧迫されます。値上げやポーションの見直し、高利益なサイドメニューとのセット化など、利益改善のメスを入れるべき最優先候補です。
- 売上Cランク × 利益Aランク めったに売れないが、一度出ると非常に儲かる「隠れた宝石」。このメニューの魅力をどう伝え、どう売っていくか。ここにマーケティングの面白さがあります。ただし、調理の手間がかかりすぎる場合は、費用対効果を慎重に見極める必要があります。
- 売上Cランク × 利益Cランク ほとんど売れず、儲かりもしない「お荷物メニュー」。特別な理由がなければ、ここがあなたの店の改革の出発点。真っ先に廃止を検討すべき対象です。
ABC分析が世界地図だとしたら、クロス分析はそれを都市レベルの詳細な地図にするようなもの。この解像度の高い地図があれば、あなたのメニュー改定は、もはやギャンブルではなく、成功確率の高い科学的な戦略へと進化します。

「美味しい」を「儲かる」に変える、はじめの一歩
ここまで、飲食店の売上と利益を最大化するためのABC分析について、その真髄を解説してきました。この分析が、単に不要なメニューを削るための冷たいリストラ作業ではなく、自店の「本当の強み」を再発見し、限られた資源を未来のために集中させる、極めてポジティブな経営戦略であることが、きっとご理解いただけたかと思います。
あなたの厨房で、毎日愛情と情熱を込めて作られている一皿一皿。その価値を、一度だけ、データという客観的な鏡に映し出してはみませんか?そこには、これまで感覚だけでは決して見えなかった、あなたの店の未来を明るく照らし出す、宝の地図がはっきりと示されているはずです。
高価なコンサルタントは必要ありません。必要なのは、ほんの少しの知識と、自分のお店と真剣に向き合う、あなたの覚悟だけです。
まずは一枚の紙とペンを用意するところから。あるいは、POSレジの分析ボタンをクリックするところから。あなたの店の未来を変える、偉大な冒険の第一歩を、今日この瞬間から踏み出してみませんか。


