未来の広告「クッキーレス時代」の到来|マーケターが今すぐ準備すべきこと
2025年11月03日

「サードパーティークッキーが、いよいよ廃止されるらしい…」。 Webマーケティングの現場にいる方なら、この言葉に漠然とした、しかし無視できない不安を感じているのではないでしょうか。「これまで当たり前だったリターゲティング広告が使えなくなる?」「コンバージョンの計測はどうなってしまうんだ?」正直、私もこのニュースを初めて聞いた時、長年積み上げてきたノウハウが一夜にして通用しなくなるかもしれない、という一種の恐怖すら覚えました。
しかし、これは単なるブラウザの仕様変更という話ではありません。インターネットを利用する一人ひとりのプライバシーをどう守るかという、社会全体の大きな価値観の変化の現れなのです。
だからこそ、私たちはこの変化を「技術的な問題」としてだけ捉えるのではなく、未来の顧客とどう向き合っていくかという「コミュニケーションのあり方」を根本から見直す、大きなチャンスとして捉える必要があります。
目次
1. サードパーティークッキーが廃止される本当の理由
多くのマーケターが「サードパーティークッキーの廃止」と聞くと、Google Chromeの仕様変更という、どこか遠い世界の技術的なニュースのように感じてしまうかもしれません。
ですが、その本質はもっと私たちの身近な感覚に根差しています。
それは一言でいうなら、「知らないうちに、誰かにずっと後をつけられているような気味の悪さ」に対する、世界的なノーの表明なのです。
考えてみてください。あなたが昨日、あるECサイトで見たスニーカーの広告が、
- 今日はニュースサイトにも
- SNSのフィードにも
- 果ては全く関係のないブログにまで
表示される。
便利だと感じる一方で、まるで「あなたの行動がすべて記録され、筒抜けになっている」ような、そんな漠然とした不快感を覚えたことはありませんか?
この「ユーザー本人が知らないうちに、サイトを横断して行動が追跡される」ことを可能にしていた魔法の道具こそが、サードパーティークッキーでした。
- ウェブサイトの運営者とは異なる、第三者の広告配信事業者が発行する
- 私たちのデジタル上の足跡を追いかけるための「見えない発信機」
として、この小さなファイルが機能していたわけです。
この仕組みに対する「待った」をかけたのが、欧州のGDPR(一般データ保護規則)に代表される、プライバシー保護を目的とした法規制の大きな潮流です。
これは、単なるルール変更ではありません。
インターネットの世界における「個人のデータは、個人自身のものである」という基本的人権を確立するための、いわば“デジタル人権宣言”だったのです。
この大きなうねりの中で、
- AppleのSafari
- MozillaのFirefox
は、かなり早い段階からサードパーティークッキーの利用に厳しい制限をかけてきました。
つまり、市場の大部分を占めるGoogle Chromeにおける廃止は、この流れにおける「最後の一手」のようなもの。一部の企業が始めた動きではなく、世界中のユーザーが「自分のプライバシーは自分でコントロールしたい」と声を上げた、必然的な帰結なのです。
私たちが向き合っているのは、単なるブラウザのアップデートではなく、インターネットのあり方そのもののパラダイムシフトなのです。
※関連記事:広告クリエイティブの「A/Bテスト」完全マニュアル|感覚ではなくデータで勝利する
2. ターゲティング広告に与える具体的な影響
では、サードパーティークッキーが使えなくなることで、私たちの日常業務にはどんな変化が起きるのか。特に、これまでWeb広告の成果を支えてきた「ターゲティング広告」にとっては、まさに致命的とも言える影響が避けられません。それはまるで、これまで顧客の顔写真付きの名簿を見ながら営業ができていたのに、ある日突然、全員が仮面をかぶり、名前も分からなくなってしまうようなものです。
具体的に、どのような影響が出るのか。特にインパクトが大きいのは、以下の3つの領域です。
-
リターゲティング広告の機能不全
「一度サイトを訪れたけれど購入しなかったユーザーを追いかけて、もう一度広告を表示する」。このWeb広告の王道とも言える手法は、サードパーティークッキーの仕組みに完全に依存していました。サイトを横断して特定のユーザーを識別できなくなるため、この手法は原則として不可能になります。私が以前担当したECサイトのキャンペーンでは、繁忙期の売上の実に4割がリターゲティング経由だったこともあります。その大黒柱が、根こそぎ失われるかもしれないのです。
-
オーディエンスターゲティングの精度低下
広告配信プラットフォームが提供する「30代の車好き」「最近、旅行を検討している」といったオーディエンスデータも、その多くがサードパーティークッキーを利用して構築されていました。しかし、その元となるサイト横断のトラッキングができなくなるため、こうしたデータの精度は著しく低下します。これまで頼みの綱だった「狙い撃ち」が、非常に困難になるのです。
-
ビュースルーコンバージョンの計測不能
「広告をクリックはしなかったが、広告が表示されたのを見たユーザーが、後日コンバージョンした」。この広告の“認知”への貢献度を測る重要な指標も計測できなくなります。これにより、ディスプレイ広告などの認知系施策の効果が正しく評価できなくなり、広告予算の最適化がより一層難しくなるでしょう。
私がWebマーケティングの世界に入った頃、リターゲティング広告の精度の高さに衝撃を受けたことを今でも覚えています。まるで魔法のように、見込み顧客を「見つけ出して」きてくれる。しかし今思えば、その魔法はユーザーのプライバシーという、ある種の“グレーゾーン”の上に成り立っていたのかもしれません。クッキーレス時代は、私たちマーケターに、その魔法に頼らない新しい戦い方を身につけることを要求しているのです。

3. コンバージョン計測はどう変わるのか
「広告の成果をどう測るか」は、マーケターの生命線です。サードパーティークッキーの廃止は、このコンバージョン計測のあり方にも、大きな変化を突きつけます。これまで「当たり前」だった数値が、同じようには取れなくなる。私たちは、計測の限界を理解した上で、新しい物差しを持つ必要に迫られています。
最も大きな影響は、ビュースルーコンバージョンの計測不能ですが、問題はそれだけにとどまりません。複数の広告接触がコンバージョンにどう貢献したかを分析する「アトリビューション分析」においても、その精度が大きく低下します。
結果として、コンバージョン直前のラストクリックだけが評価される「ラストクリック至上主義」へ逆戻りしてしまう危険性すらあるのです。これでは、顧客の購買意欲を時間をかけて醸成するような、ファネル上流の施策が正当に評価されず、短期的な刈り取り施策にばかり予算が偏ってしまうかもしれません。
では、私たちは指をくわえて見ているしかないのでしょうか? もちろん、そんなことはありません。この暗闇を照らす灯台のような、新しい技術も登場しています。
- サーバーサイドタギング
従来のブラウザ側で計測タグを動かすのではなく、自社で管理するサーバーを経由して計測を行う方法です。これにより、ブラウザのクッキー制限の影響を受けにくくなります。
- 各種APIの活用
Googleのプライバシーサンドボックスなどで提供される「Attribution Reporting API」のような新しい技術を活用することで、プライバシーに配慮した形で、限定的ながらコンバージョン計測を行うことが可能になります。これは、個々のユーザーを特定するのではなく、統計的なデータとして成果を把握する仕組みです。
私が関わったあるプロジェクトでは、来るべきクッキーレス時代に備え、早期からサーバーサイドタギングの導入検証を進めました。正直、初期コストは安くありませんでした。しかし、ブラウザのアップデートに右往左往することなく、安定したデータ基盤を維持できるという安心感は、何物にも代えがたいものでした。
これからのコンバージョン計測は、これまでのように「完璧な正解」を追い求めるのではなく、様々な制約の中で得られるデータから「最も確からしい示唆」を読み解く、より高度な分析力が求められるようになるでしょう。
4. ゼロパーティデータ・ファーストパーティデータの重要性
サードパーティークッキーという「賃貸の家」から、いよいよ退去を迫られる時代。マーケターが次に住むべき、そして耕すべき自分たちの土地。それが、「ゼロパーティデータ」と「ファーストパーティデータ」です。これらは、自社で収集・管理する、いわば“自前の資産”。これからのマーケティングは、この自社データをいかに豊かにできるかにかかっていると言っても過言ではありません。
まず、それぞれのデータの違いを明確にしておきましょう。
- ファーストパーティデータ
企業が自社のウェブサイトやアプリなどを通じて、顧客から直接収集したデータのことです。購買履歴や会員情報などがこれにあたります。 - ゼロパーティデータ
ファーストパーティデータの中でも特に、顧客が「意図的」かつ「自発的」に企業へ提供してくれるデータのことです。アンケートの回答や診断コンテンツの結果など、顧客の「生の声」がこれにあたります。
サードパーティークッキーが「ユーザーの許可なく、裏でこっそり集められた行動履歴」だったのに対し、これらのデータは、企業と顧客との「合意の上での情報交換」によって得られるものです。この透明性と信頼性こそが、最大の強みとなります。
私が以前、ある化粧品ブランドのECサイト支援に入った時のことです。アクセスはあるものの、誰がどんな悩みを抱えているのかが見えず、画一的なアプローチしかできていませんでした。そこで、私たちは「5分でわかる!あなたの肌質診断」というコンテンツを企画しました。ユーザーはいくつかの質問に答えるだけで、自分におすすめの商品を知ることができます。
この施策は大当たりでした。ユーザーは楽しみながら診断に参加し、その結果として「乾燥肌で、毛穴の開きに悩んでいる」といった、非常に質の高いゼロパーティデータを自ら提供してくれたのです。私たちはこのデータを活用し、診断結果に基づいてパーソナライズされたメールマガジンを配信。結果、メール開封率は従来の2倍以上に跳ね上がりました。
この経験から痛感したのは、これからのデータ戦略は、もはや「追跡」ではなく「対話」なのだということです。顧客にとって価値のある体験を提供し、その対価として情報を預けてもらう。この健全な価値交換のサイクルを、自社のプラットフォーム上でいかに構築できるか。それが、マーケターの腕の見せ所になるのです。
※関連記事:動画制作における「音」の演出術|映像の価値を倍増させるサウンドデザイン
5. Googleが提唱するプライバシーサンドボックスとは
サードパーティークッキーの廃止を主導するGoogleが、その代替案として提示しているのが「プライバシーサンドボックス」という一連の技術群です。これは、いわばGoogleが描く「未来のWeb広告の設計図」のようなもので、今後のルールそのものを形作っていく可能性があります。
しかし、その内容は非常に複雑で、多くのマーケターが理解に苦しんでいるのが現状でしょう。 その本質を一言でいうなら、「個人を特定する『個』の追跡は諦める。しかし、広告ビジネスが成り立つように『群れ』としてなら捉えられるようにする」という、プライバシーとビジネスの壮大な両立への挑戦です。
この構想を実現するため、現在、様々な技術(API)が提案・テストされています。その中でも、マーケターが特に知っておくべき主要な3人の専門家チームのようなものがいます。
-
Topics API(興味分析の専門家)
ブラウザがユーザーの閲覧履歴から、その人が興味を持つであろう「トピック」を推測します。広告側は個人ではなく、この「トピック」の情報だけを受け取ることで、大まかな興味関心に基づいた広告配信を行います。
-
Protected Audience API(リターゲティングの専門家)
ユーザーがサイトを訪れると、ブラウザ内で「興味関心グループ」に追加されます。広告のオークションもブラウザ内で完結するため、外部は誰がどのグループに属しているかを知ることができません。これでプライバシーを守りながらリターゲティングを目指します。
-
Attribution Reporting API(効果測定の専門家)
広告のクリックなどがコンバージョンにどう繋がったかを、個人を特定しない統計データとして提供します。これにより、広告の効果測定は可能にしつつ、プライバシーを保護します。
プライバシーサンドボックスは、まだ開発途上の技術も多く、その全貌が固まったわけではありません。しかし、この動きは、間違いなく未来のWeb広告の標準となっていきます。私たちマーケターは、特定のツールが使えなくなることを嘆くのではなく、この新しいルールの上でどうすれば効果的なコミュニケーションが実現できるのかを考え、積極的に新しい技術をテストしていく姿勢が求められているのです。

6. コンテクスチュアル広告への回帰
「人」を追う広告の次へ:AIで進化する「コンテクスチュアル広告」の再評価
「人」を追いかける広告が難しくなる中で、今、一周回ってその価値が見直されているのが「面」を狙う広告、すなわち「コンテクスチュアル広告」です。
コンテクスチュアル広告とは?
これは、インターネット広告の初期から存在する古典的な手法ですが、その中身は大きく進化しています。
- 目的: ユーザー個人を追跡するのではなく、広告が掲載されるページの「文脈(コンテキスト)」を解析します。
- 手法: ページの「内容」と関連性の高い広告を配信します。
(古典的な例): 自動車の記事の横に、車の広告を出す。
「昔」と「今」の決定的違い:AIによる進化
「なんだ、昔ながらの手法か」と思うかもしれません。しかし、現代のコンテクスチュアル広告は、AIによる自然言語処理技術の向上によって、かつてとは比較にならないほど高度化しています。
- 昔の手法:
- 単純な「キーワード」を拾っているだけでした。
- 現代の手法 (AI活用):
- 文章全体の構造やニュアンスを深く理解します。
- さらには、ポジティブかネガティブかといった「感情」まで理解します。
この進化により、「老後の生活資金に不安を感じる」という文脈の記事に対して、「資産形成セミナー」の広告を出す、といった非常に精度の高いターゲティングが可能になるのです。
驚くべき成果と「本質的な気づき」
私が最近支援したある金融機関のプロジェクトでは、この高度なコンテクスチュアル広告をテストしました。
- 成果:
- 一部では、従来のリターゲティング広告に匹敵するほどの高い成果を記録しました。
- 得られた気づき:
- 私たちはこれまで「誰が見ているか」ばかりを気にしすぎていたのではないか。
- 「その人は、今、どんな気持ちで、何を見ているのか」という、最も基本的な視点を見失っていたのではないか。
ユーザーに「寄り添う」広告へ
コンテクスチュアル広告への回帰は、単なる懐古主義ではありません。
それは、ユーザーを“追う”広告から、ユーザーが“今いる場所”と“今見ている世界”に寄り添う広告への、本質的なシフトなのです。
※関連記事:インフルエンサーマーケティングのKPIツリー作成法|施策を成功に導く設計図
7. これからの広告で求められる顧客との信頼関係
ここまで、様々な技術や手法について解説してきました。しかし、最も重要な変化は、テクノロジーの話ではなく、私たちマーケターの「心構え」そのものに起ころうとしています。
サードパーティークッキーに代表される追跡技術は、ある意味で、顧客の許可なくその行動を追い回す、一方的なコミュニケーションでした。しかし、その“抜け道”が塞がれようとしている今、私たちは、広告やマーケティング活動の前提を、根本から見直さなければなりません。
それは、以下のような大きな転換です。
- 「追跡」から「対話」へ
- 「一方的な説得」から「相互の信頼関係」へ
これからの時代、ユーザーは自分のデータを、信頼できると判断した企業にしか預けてくれなくなります。
では、その「信頼」は、どこから生まれるのでしょうか?
それは、企業が顧客に対して、一貫して価値のある情報や体験を提供し続けることからしか生まれません。
結局のところ、技術で顧客の行動を縛り付けることに限界が来た今、私たちは「そもそも自社は、顧客にとって価値のある存在とは何か?」という、マーケティングの最も本質的な問いに立ち返ることを求められているのです。
私が尊敬するある企業のマーケターは、常々こう言っていました。
「私たちは、広告費を払って顧客の時間を“買う”のではなく、素晴らしいコンテンツを作ることで、顧客から時間を“いただく”のだ」
この言葉の意味が、今、これまで以上に重く響きます。
クッキーレス時代は、2つの側面を持っています。
- 小手先の技術に頼ってきたマーケターには厳しい時代の始まりかもしれません。
- しかし、顧客と真摯に向き合い、長期的な信頼関係を築くことの価値を理解しているマーケターにとっては、その真価が問われる、エキサイティングな時代の幕開けでもあるのです。
※関連記事:MEOとは?店舗集客の基本を初心者向けに徹底解説
8. 同意管理プラットフォーム(CMP)の役割
クッキーレス時代、そしてプライバシー保護が重視される現代において、企業がユーザーと健全な関係を築く上で、避けて通れないツールがあります。それが「CMP(同意管理プラットフォーム)」です。ウェブサイトを訪れた際に表示される「Cookieの使用に同意しますか?」といった、あのバナーの裏側を支えるシステムですね。
CMPの役割は、単に同意を取得するだけではありません。
- ユーザーへの情報提供と同意の取得
- 同意ステータスの管理・保存
- 各種ツールへの同意情報の連携
GDPRなどのプライバシー法制では、こうした同意の取得と管理が厳格に義務付けられており、CMPの導入は、もはや当たり前の対応となりつつあります。
しかし、私がここで強調したいのは、CMPを単なる「法律対応のための、仕方なく導入するツール」と捉えてほしくない、ということです。CMPは、顧客に対して「私たちは、あなたのプライバシーを尊重しています」という企業姿勢を明確に示す、非常に重要な「コミュニケーションツール」なのです。
それは、レストランの入り口で「当店は、すべての食材の産地とアレルギー情報を正直にお伝えします」と宣言するようなもの。その誠実な姿勢が、顧客の安心感と信頼に繋がるのです。CMPの導入と適切な設定は、法的なリスク回避という守りの側面だけでなく、ユーザーからの信頼を獲得し、長期的な関係を築くという攻めのブランディングの一環として、極めて重要な意味を持つのです。

9. クッキーレス時代を生き抜く広告戦略
さて、ここまでクッキーレス時代がもたらす変化を見てきました。では、私たちは明日から、具体的に何を始めれば良いのでしょうか。ここでは、マーケターが取るべき具体的なアクションプランを提案します。
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自社データ基盤の徹底的な強化
これが全ての土台です。まずは、会員登録やメルマガ、診断コンテンツなど、顧客との接点を増やし、質の高いファーストパーティ/ゼロパーティデータを収集する仕組みを設計しましょう。そして、それらのデータを顧客理解に繋げるためのCDP/CRMといったプラットフォームを整備することが不可欠です。
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コンテンツマーケティングへの本格的な投資
広告で「追いかける」ことが難しくなる以上、顧客から「見つけてもらう」ための魅力的なコンテンツが、これまで以上に重要になります。SEOを意識したブログ記事や、顧客の課題を解決するノウハウ動画など、顧客との継続的なエンゲージメントを築くための投資を惜しんではいけません。
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新しい広告技術へのキャッチアップと少額テスト
変化を恐れず、新しい波に積極的に乗っていく姿勢が求められます。プライバシーサンドボックスの動向を常に注視し、高度化したコンテクスチュアル広告を少額でも試してみる。トライ&エラーを繰り返しながら、自社に合った新しい勝ちパターンを見つけ出すことが重要です。
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広告評価指標(KPI)の再設計
詳細なアトリビューションデータが得られなくなることを前提に、広告効果の測り方を見直す必要があります。ラストクリック偏重から脱却し、キャンペーン全体の貢献度を多角的に評価する方法を模索しましょう。
これらの戦略は、一朝一夕に実現できるものではありません。しかし、今すぐ着手しなければ、サードパーティークッキーが完全に廃止された時、なす術なく立ち尽くすことになりかねません。これは、もはや広告運用担当者だけの課題ではなく、事業全体で取り組むべき、経営課題なのです。
10. 変化をチャンスに変える新しい広告の形
サードパーティークッキーの終焉。それは、Webマーケティングの一つの時代の終わりを告げる、大きな地殻変動です。多くのマーケターが、不安や戸惑いを感じるのは当然のことでしょう。
しかし、私はこの変化を、必ずしも悲観的に捉える必要はないと考えています。むしろ、これは私たちマーケターにとって、自らの仕事の価値を再定義する、絶好のチャンスなのではないでしょうか。
小手先のターゲティング技術さえあれば、ブランドに魅力がなくても、コンテンツがつまらなくても、ある程度の成果が出てしまっていた。そんな時代が、終わろうとしているのです。これからの広告の世界では、ごまかしは効きません。
- ユーザーが自ら集まってくるような、本当に価値のあるコンテンツを持っているか。
- 顧客一人ひとりと誠実に対話し、信頼関係を築けているか。
- テクノロジーを、顧客を追い詰めるためではなく、顧客体験を豊かにするために使えているか。
こうした、マーケティングの“本質”が、真正面から問われる時代がやってきます。それは、短期的な数字を追いかけるだけの仕事から、顧客に愛されるブランドを育てるという、より創造的で、長期的な視点を持った仕事へと、私たちマーケターの役割を進化させることを要求しています。
クッキーレス時代は、マーケターにとっての“冬の時代”ではありません。それは、安易な追跡技術という名のドーピングが禁止され、純粋なブランド力やコンテンツの魅力といった「基礎体力」で競い合う、新しい競技の始まりなのです。この変化を脅威と捉えるか、好機と捉えるか。その分水嶺に、私たちは今、立っています。
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「追跡」から「対話」の時代へ。信頼を基盤にした新しい関係を築く
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。 クッキーレス時代の到来が、単なる技術的な制約ではなく、顧客との向き合い方そのものを変える大きなパラダイムシフトであることを、感じていただけたのではないでしょうか。
サイトを横断してユーザーを追いかける「追跡」の時代は終わりを告げ、これからは、顧客の同意と信頼を基盤とした「対話」の時代が始まります。その対話の質を高めるために、私たちは自社のウェブサイトやコンテンツを磨き上げ、顧客が自ら情報を預けたいと思えるような、魅力的な存在にならなければなりません。
もちろん、この移行期には、多くの痛みや混乱が伴うでしょう。しかし、その先にあるのは、ユーザーから「邪魔者」扱いされる広告ではなく、価値ある情報として歓迎されるコミュニケーションの姿です。
今、私たちマーケターに求められているのは、失われる技術を嘆くことではありません。新しいルールの上で、いかにして顧客との間に、より深く、より誠実な関係を築いていけるか。そのための知恵と創造性を、最大限に発揮することです。この大きな変化の波を乗りこなし、顧客からの信頼という最も確かな資産を築き上げた企業だけが、未来のマーケティングの勝者となるのです。


