インフルエンサーとNFT|デジタルコンテンツの新しい価値と所有の形
2025年11月18日

「いいね」の数やフォロワー数が、インフルエンサーの価値を決める。そんな時代が、少しずつ変わり始めています。プラットフォームのアルゴリズム変更に一喜一憂し、広告収益の変動に頭を悩ませる。多くのクリエイターが、そんな不安定な土台の上で活動しているのが現実ではないでしょうか。私自身、長年Webコンテンツの世界にいますが、どれだけ素晴らしいコンテンツを作っても、その価値が正当にクリエイターへ還元されにくい構造に、ずっともどかしさを感じてきました。
そんな中、登場したのが「NFT」という新しいテクノロジーです。これは単なるデジタル資産という言葉だけでは片付けられない、インフルエンサーとファンの関係性を根底から覆すほどの可能性を秘めています。ファンがクリエイターを「直接」支え、その活動の「一部を所有」する。そんな、これまでは夢物語だった世界が、現実のものになろうとしているのです。これから、NFTがもたらす新しい価値と所有の形、そしてインフルエンサーがこれからどう向き合っていくべきか、私が現場で感じている熱気や具体的な事例を交えながら、一つずつ丁寧に解説していきます。
目次
1.NFT(非代替性トークン)の基本
「NFT」と聞くと、なんだか難解な専門用語に聞こえるかもしれませんね。ですが、その本質は意外とシンプルです。一言でいうなら、NFTは「デジタルデータに付けられる、世界で一つだけの鑑定書であり所有証明書」のようなものです。
NFTは「Non-Fungible Token」の略で、日本語にすると「非代替性トークン」となります。 「代替不可能」とは、つまり「替えが効かない唯一無二の存在」という意味です。 これを理解するために、現実世界の例で考えてみましょう。
あなたが持っている100円玉と、私が持っている100円玉は、どちらも同じ価値を持ち、交換しても何の問題もありません。これは「代替可能」です。しかし、有名な画家が描いた世界に一枚しかない絵画はどうでしょうか。それは他のどんな絵画とも交換できない、唯一無二の価値を持っています。これが「代替不可能」です。
これまで、デジタルデータの世界ではこの「代替不可能」を実現するのが非常に困難でした。画像や音楽、動画は簡単にコピーできてしまい、どれがオリジナルでどれがコピーなのかを区別する方法がなかったからです。 あなたが作った渾身のイラストも、右クリック一つで誰にでも複製されてしまう。これでは、そこに資産的な価値は生まれにくいですよね。
この問題を解決したのが、NFTの根幹を支える「ブロックチェーン」という技術です。ブロックチェーンは、取引の記録を鎖のようにつなげて、世界中のコンピューターに分散して管理する仕組みです。 この技術のおかげで、一度記録された情報を後から改ざんしたり、コピーしたりすることが実質的に不可能になりました。
つまり、あるデジタルデータにNFTを紐づけることで、
これが「本物のオリジナル」であること
今、それを「誰が所有しているか」
この二つを、誰もが確認でき、かつ誰も改ざんできない形で証明できるようになったのです。 これにより、デジタルデータは単なる情報から、現実世界の絵画や不動産のように「所有」できる「資産」へと、その価値を大きく変えることになりました。
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2.インフルエンサーがNFTを発行するメリット
では、このNFTという技術を、インフルエンサーはどのように活用できるのでしょうか。それは単に新しいガジェットを使う、という話ではありません。自身の活動のあり方、そしてファンとの関係性を、より本質的なものへと進化させるための、強力なツールとなり得るのです。
インフルエンサーがNFTを発行することには、主に4つの大きなメリットがあります。
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新たな収益源の創出
これは最も直接的で分かりやすいメリットです。インフルエンサーは、自身のデジタルコンテンツ(写真、イラスト、動画、文章など)をNFT化し、ファンに直接販売することができます。これは従来の広告収益や企業案件、グッズ販売とは全く異なる、新しいマネタイズの柱となります。
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ファンとのエンゲージメント強化
NFTは、ファンとの間にこれまでにない新しい形の「つながり」を生み出します。ファンは単なるコンテンツの消費者ではなく、インフルエンサーの活動の一部を「所有」する当事者になります。この「所有」という体験は、ファンにとって特別な満足感となり、コミュニティへの帰属意識を飛躍的に高めます。
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中間業者からの脱却
現在のインフルエンサーエコノミーは、特定のSNSプラットフォームに大きく依存しています。プラットフォーム側が手数料を取り、アルゴリズムの変更一つで収益が大きく変動する不安定さがあります。しかし、NFTはブロックチェーン上で個人間が直接取引できるため、こうした中間業者を介さずに、ファンからの支援をダイレクトに受け取ることが可能になります。クリエイターが自身の価値を、より正当に受け取れる仕組みなのです。
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自身のブランド価値の可視化
NFTの取引履歴は、ブロックチェーン上に半永久的に記録されます。インフルエンサーが発行したNFTが高い価格で取引されれば、それはそのインフルエンサーのブランド価値が市場で認められたことの客観的な証明となります。自身の活動が「資産」として可視化されることで、新たなビジネスチャンスやコラボレーションに繋がる可能性も広がります。
面白いことに、これらのメリットは相互に作用し合います。例えば、ファンとのエンゲージ-メントが深まれば、NFTの価値は高まり、それが新たな収益に繋がる。そして、その収益を元に、さらに質の高いコンテンツやファンが喜ぶ企画を生み出すことができる。NFTは、そんなポジティブな循環を生み出す起爆剤となり得るのです。

3.デジタルアートや会員権としての活用
NFTの可能性は理論上無限大ですが、インフルエンサーがすぐにでも取り組める活用法として、特に注目されているのが「デジタルアート」と「会員権」という二つのアプローチです。これらは、インフルエンサーが持つ独自の世界観やコミュニティを、直接的な価値に変えるための非常に有効な手段と言えるでしょう。
デジタルアートとしてのNFT
これは最もイメージしやすい活用法かもしれません。インフルエンサーが日々生み出すクリエイティブなコンテンツ、その一つひとつが、唯一無二のアート作品として生まれ変わります。
- 写真: 奇跡の一瞬を捉えた未公開の写真や、特別な思い入れのある一枚をNFTアートとして発行する。
- イラスト: 自身のキャラクターや世界観を表現したイラストに、シリアルナンバーを付けて限定販売する。
- ショート動画: SNSには投稿していない特別なショートムービーや、撮影の舞台裏などをNFT化する。
- 音楽・音声: 自身で制作した楽曲や、ファンへの特別なメッセージを込めた音声データを作品として提供する。
これまでのデジタルアートは、簡単にコピーできてしまうため資産価値を持たせることが困難でした。 しかし、NFTによって「本物の証」が与えられることで、ファンはコレクターズアイテムとして、その作品を所有する喜びを感じることができます。 私が注目しているのは、単に作品を売るだけでなく、そのNFTの保有者だけがアクセスできる「制作秘話」の限定コンテンツをセットにするなど、付加価値をデザインする点です。これにより、所有する意味はさらに深まります。
会員権としてのNFT
NFTが真価を発揮するのは、この「会員権」としての側面かもしれません。NFTは、特定のコミュニティやサービスへアクセスするための「鍵」や「パスポート」として機能します。 これは、熱量の高いファンを抱えるインフルエンサーにとって、まさにうってつけの活用法です。
- オンラインサロンの会員証: NFT保有者だけが参加できる、クローズドなコミュニティの会員証として利用する。
- 限定コンテンツへのアクセス権: NFTを持っている人だけが閲覧できる特別な記事、動画、ライブ配信などを提供する。
- イベントへの参加チケット: リアルイベントやオンラインでのファンミーティングの参加チケットをNFTで発行する。
- プロジェクトへの参加権: 新しい企画や商品開発など、インフルエンサーの活動方針を決める投票への参加権を与える。
従来の会員証とNFT会員権の決定的な違いは、その会員権自体が資産価値を持ち、NFTマーケットプレイスで自由に売買できる点です。 もちろん、譲渡不可能な設定にすることも可能です。 これにより、コミュニティの人気が高まれば会員権の価値も上がり、初期から応援していたファンが利益を得ることも可能になります。
デジタルアートがインフルエンサーの「過去」の作品を資産化するものだとすれば、会員権NFTは、インフルエンサーの「未来」の活動をファンと共に創り上げていくための、強力なツールとなるのです。
4.ファンがインフルエンサーを直接支援する仕組み
インフルエンサーエコノミーの根幹を支えているのは、言うまでもなくファンの存在です。しかし、従来の仕組みでは、ファンの「応援したい」という気持ちは、多くの場合、プラットフォームという巨大なフィルターを通して、間接的にしかインフルエンサーに届きませんでした。
例えば、動画の視聴による広告収入、ライブ配信での「投げ銭」やスーパーチャット。これらはもちろん重要な収益源ですが、そのうちの少なくない割合が、プラットフォームへの手数料として差し引かれてしまいます。ファンが1,000円を投じたとしても、インフルエンサーの手元に届くのはその一部です。この構造は、ファンとインフルエンサーの間に、見えない壁を作っているとも言えます。
ここに革命をもたらすのが、NFTによる直接支援の仕組みです。ブロックチェーン技術を基盤とするNFTは、特定の企業や組織が管理する中央集権的なサーバーを必要としません。個人と個人の間で、価値を直接、安全にやり取りすることができます。
ファンがインフルエンサーの発行したNFTを購入するという行為は、
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価値の直接移転:
プラットフォームを介さず、支払った代金がほぼそのままクリエイターの活動資金となります。これにより、ファンは自分の応援がダイレクトに届いているという強い実感を得られます。
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単なる「消費」から「投資」へ:
NFTを購入することは、単にお金を払ってコンテンツを消費する行為とは一線を画します。それは、インフルエンサーの未来の可能性に対する「投資」に近い感覚です。インフルエンサーの人気が高まり、コミュニティが成長すれば、自分が初期に手に入れたNFTの価値も上昇する可能性があります。
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活動の「証人」であり「株主」に:
NFTを保有するということは、そのインフルエンサーの活動の初期からの支援者であることの「証明」になります。それはまるで、企業の草創期から応援してきた株主のような存在です。この証明はブロックチェーン上に刻まれ、誰にも消すことはできません。
私自身、この仕組みが本当に面白いと感じるのは、ファンとインフルエンサーの関係性を「支援する側」と「される側」という一方通行の関係から、「共に価値を創造していくパートナー」という双方向の関係へと変える力がある点です。ファンはもはや単なる観客ではありません。インフルエンサーという船に共に乗り込み、その航海を支えるクルーの一員になるのです。この心理的な変化こそが、これからのインフルエンサーマーケティングの鍵を握っていると、私は確信しています。
※関連記事:インフルエンサーマーケティングのKPIツリー作成法|施策を成功に導く設計図
5.コミュニティ形成とNFTの連携
インフルエンサーの活動において、単に多くのフォロワーを集めること以上に、熱量の高い「コミュニティ」を形成することが重要である、というのはもはや常識となりつつあります。ファン同士が繋がり、共通の話題で盛り上がり、インフルエンサーを核とした一つの文化圏が生まれる。そんな強固なコミュニティは、活動を長期的に支える、何よりの財産となります。
このコミュニティ形成において、NFTはまさに「魔法の杖」のような役割を果たします。NFTは、単なるデジタルアイテムに留まらず、同じ価値観や目的を共有する人々を結びつけ、その絆を強化するための強力なツールとなるのです。
NFTがもたらすコミュニティへの効果
- 明確な「メンバーの証」: NFTは、そのコミュニティの正式なメンバーであることを示す、偽造不可能なデジタル会員証として機能します。 これを所有しているという事実そのものが、メンバーであることの誇りや一体感を生み出します。
- 帰属意識と限定性: NFT保有者だけがアクセスできる限定のオンラインスペース(例えば、Discordの特別チャンネルなど)を設けることで、「自分たちは選ばれたメンバーだ」という特別な帰属意識が生まれます。この「限定性」は、コミュニティの熱量を維持し、高める上で非常に効果的です。
- 共通の目的とインセンティブ: コミュニティメンバーが保有するNFTの価値は、そのコミュニティ自体の魅力や活動の活発さに直結します。つまり、「コミュニティを盛り上げることが、自らの持つ資産価値を高めることに繋がる」という、共通のインセンティブが生まれるのです。これにより、メンバーは単なる受け手ではなく、コミュニティをより良くしようと主体的に貢献するようになります。
私がこれまで見てきた多くのオンラインコミュニティでは、いかにしてメンバーの主体性を引き出すかが常に大きな課題でした。しかし、NFTを導入したプロジェクトでは、メンバーが自発的にイベントを企画したり、新規メンバーを歓迎する文化を作ったりと、驚くほど活発な動きが見られます。それはまさに、NFTが「自分ごと」としてコミュニティに関わる強力な動機付けになっている証拠です。
地方創生プロジェクトの事例から学ぶ
例えば、近年では地方自治体がNFTを活用して「関係人口」を増やす取り組みが注目されています。 ある村では、デジタル村民証としてのNFTを発行し、その保有者が村の将来に関する意思決定に参加できる仕組みを導入しました。 結果として、実際の人口をはるかに超える人々がデジタル村民となり、地域活性化のためのアイデアを出し合う活発なコミュニティが形成されています。
この事例は、インフルエンサーにとっても大きなヒントとなります。NFTを通じて、ファンに自身の活動の「意思決定」に関わる機会を提供する。そうすることで、ファンは単なる支持者から、運命を共にする「共創者」へと進化していくのです。NFTは、インフルエンサーとファンの関係を、かつてないほど深く、強固なものへと変える可能性を秘めています。

6.インフルエンサーの新しい収益源
インフルエンサーの収益モデルといえば、広告収入、企業とのタイアップ案件、グッズ販売、あるいは有料メンバーシップなどが主流でした。これらは今もなお重要な収益源ですが、その多くは単発的であったり、プラットフォームの規約に縛られたりする不安定さを抱えています。
ここに、NFTは全く新しい、そして極めてクリエイター本位な収益の仕組みをもたらします。それが、「二次流通におけるロイヤリティ」という画期的な概念です。
一次販売だけではない、永続的な収益モデル
まず、インフルエンサーが自身の作品をNFTとして初めて販売することを「一次販売」と呼びます。ファンがこれを購入することで、インフルエンサーは直接的な収益を得ます。ここまでは、従来のグッズ販売と似ています。
NFTの真の革命は、その後にあります。
NFTは、マーケットプレイスと呼ばれるプラットフォーム上で、所有者間で自由に再販(二次流通)することが可能です。 例えば、ファンAさんがインフルエンサーから1万円でNFTを購入し、その後、そのインフルエンサーの人気が高まったことで、ファンBさんに5万円でそのNFTを転売したとします。
従来の世界であれば、この5万円の取引に、元の制作者であるインフルエンサーが関わることはありませんでした。画家が一度売った絵が、後年オークションで何億円で落札されようと、画家の遺族に1円も入らないのと同じです。
しかし、NFTの多くは「スマートコントラクト」というプログラムを内包しており、ここで事前に「二次流通で取引が成立した場合、その売買代金のX%を制作者に自動的に還元する」というルールを設定できるのです。
例えば、ロイヤリティを10%に設定していた場合、上記の5万円の取引が成立した瞬間に、その10%にあたる5,000円が、自動的に制作者であるインフルエンサーのウォレットに支払われます。この仕組みは、ブロックチェーン上で半永久的に執行され続けます。つまり、そのNFTが未来永劫、転売され続ける限り、インフルエンサーは収益を得続けることができるのです。
クリエイターエコノミーのゲームチェンジ
これは、クリエイターエコノミーにおけるまさにゲームチェンジです。
- 作品の価値成長が収益に直結: 自身の人気やブランド価値が高まり、過去の作品の市場価値が上がれば上がるほど、それが直接的な収益となって還元される。
- 長期的な活動のインセンティブ: 短期的な収益だけでなく、長期的に価値が認められるような質の高いコンテンツを作り続ける強い動機付けになります。
- ファンへの利益還元: ファンは、初期に応援して購入したNFTの価値が上がることで、金銭的なリターンを得る可能性があります。これにより、「応援すること」自体に新たな価値が生まれます。
私がこの仕組みに興奮を覚えるのは、クリエイターが自身の過去の努力や功績に対して、正当な報酬を受け取り続けられるようになる点です。インフルエンサーはもはや、フロー型の収益(単発の案件)だけに頼る必要はありません。NFTによって、自身の作品群をストック型の「資産」として育てていく、という全く新しいキャリアの道筋が見えてくるのです。
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7.法的な課題とボラティリティのリスク
NFTがインフルエンサーとファンに素晴らしい未来をもたらす可能性がある一方で、その導入には慎重な検討が不可欠です。新しいテクノロジーには、必ず光と影の部分があります。特に、まだ発展途上であるNFTの世界には、無視できない法的な課題や、市場特有のリスクが存在します。
法整備が追いついていない現実
NFTは非常に新しい技術であるため、各国の法整備がまだ追いついていないのが現状です。インフルエンサーがNFTを発行・販売する際には、主に以下の点で専門的な知識や注意が求められます。
- 著作権の問題: NFTはあくまで「所有権」の証明であり、作品の「著作権」を譲渡するものではありません。 NFTを購入したからといって、その画像や動画を自由に二次利用できるわけではないのです。この点を購入者に誤解なく伝えるための利用規約の整備が不可欠です。逆に、他人の著作物を無断でNFT化して販売するような、権利侵害のリスクにも注意が必要です。
- 税金の問題: NFTの売買によって得た利益は、原則として課税対象となります。 しかし、その所得区分(事業所得、譲渡所得、雑所得など)の判断は非常に複雑です。 また、取引が暗号資産(仮想通貨)で行われるため、価格変動による損益計算も煩雑になりがちです。税務に関しては、必ず税理士などの専門家に相談することをお勧めします。
- 消費者保護の観点: NFTの価値は保証されたものではなく、大きく変動する可能性があります。そのリスクを十分に説明しないまま販売すると、後々消費者とのトラブルに発展する可能性があります。景品表示法や特定商取引法など、既存の法律に抵触しないような、透明性の高い情報提供が求められます。
ボラティリティという避けられないリスク
NFTの価格は、株式や不動産といった従来の資産とは比べ物にならないほど、激しい価格変動(ボラティリティ)のリスクを伴います。
- 暗号資産価格への連動: NFTの取引は、主にイーサリアムなどの暗号資産で行われます。 そのため、NFT自体の人気に変化がなくても、ベースとなる暗号資産の価格が暴落すれば、日本円に換算した時のNFTの価値も大きく目減りしてしまいます。
- 需給バランスと人気の変動: NFTの価格は、完全に市場の需要と供給によって決まります。 あるインフルエンサーの熱狂的な人気によって価格が急騰することもあれば、ブームが去ることで需要が減少し、買い手がつかずに価値がゼロ近くまで下落する可能性も十分にあります。
- 流動性のリスク: 売りたいと思った時に、必ずしも希望する価格で買ってくれる相手がいるとは限りません。 特にニッチなNFTの場合、全く買い手がつかず「売りたくても売れない」という状況に陥るリスクも考慮する必要があります。
私がこの分野に関わる中で常に感じているのは、NFTは「必ず儲かる投資話」では決してないということです。これは新しいエンターテインメントの形であり、クリエイターを応援するための革新的なツールですが、同時に投機的な側面も色濃く持っています。インフルエンサーもファンも、このリスクを正しく理解し、失っても生活に影響のない範囲の資金で関わることが、健全なエコシステムを育む上で何よりも重要です。
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8.インフルエンサーとWeb3.0の世界
NFTについて語る時、避けては通れないのが「Web3.0(ウェブスリー)」という、より大きな概念です。NFTは、Web3.0という新しいインターネットの世界を実現するための、重要なパーツの一つに過ぎません。インフルエンサーがNFTの真の可能性を理解するためには、このWeb3.0という大きな潮流を掴んでおくことが不可欠です。
インターネットの進化とWeb3.0
これまで、インターネットの歴史は大きく二つの時代に分けられてきました。
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Web1.0(読むインターネット):
1990年代から2000年代初頭。ホームページやポータルサイトが主役で、ユーザーは基本的に情報を受け取るだけの一方通行のコミュニケーションでした。
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Web2.0(書く・参加するインターネット):
2000年代中盤から現在まで。SNSやブログ、動画共有サイトの登場により、誰もが情報を発信し、双方向のコミュニケーションが可能になりました。インフルエンサーという存在が生まれたのも、このWeb2.0の時代です。
Web2.0は私たちの生活を劇的に豊かにしましたが、同時に大きな課題も生み出しました。それは、一部の巨大プラットフォーム(GAFAに代表される巨大テック企業)に、データと権力が集中しすぎているという問題です。私たちは彼らのプラットフォーム上で活動する限り、その規約やアルゴリズムの変更からは逃れられません。
この中央集権的な構造へのカウンターとして登場したのが、「Web3.0(所有するインターネット)」という思想です。
Web3.0は、ブロックチェーン技術を活用することで、特定の企業に依存しない「分散型」のインターネットを目指します。そこでは、ユーザーは自らのデータを自身で管理・所有し、プラットフォームを介さずに個人間で価値を直接交換できるようになります。
インフルエンサーは「プラットフォームの支配」から解放される
このWeb3.0の世界観は、インフルエンサーにとって何を意味するのでしょうか? それは、一言で言えば「主権の回復」です。
Web2.0時代のインフルエンサーは、いわば巨大なショッピングモール(プラットフォーム)の中の一テナントのような存在でした。モールが集客してくれる代わりに、高い賃料(手数料)を払い、モールのルールに従わなければなりません。
しかし、Web3.0の世界では、インフルエンサーは自分自身の「本店」を、誰にも依存しない分散型のインターネット上に構えることができるようになります。
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ファンとの直接的な関係:
中間業者を介さず、ファンと直接繋がり、コミュニティを運営し、価値を提供できます。
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データの所有権:
フォロワーリストやエンゲージメントデータといった、これまでプラットフォームが独占していた重要な資産を、インフルエンサー自身が管理できるようになる可能性があります。
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DAO(分散型自律組織):
NFT保有者であるファンたちと共に、組織の運営方針などを民主的に決定していく「DAO」という新しい組織形態も生まれています。 インフルエンサーが中心となり、ファンと共にプロジェクトを運営する、といった活用が考えられます。
私がこの流れにワクワクするのは、インフルエンサーが単なる「コンテンツ発信者」から、独自の経済圏を持つ「コミュニティのオーナー」へと進化していく未来が見えるからです。NFTは、その新しい経済圏への「入場券」であり、Web3.0はその経済圏が広がる新しい「大地」なのです。この地殻変動とも言える大きな変化に、今から備えておくことが、これからのクリエイターにとっての最大の生存戦略となるでしょう。

9.先行者利益と今後の可能性
NFTとインフルエンサーの世界は、まだ始まったばかりの、まさに黎明期です。多くの人にとっては未知の領域であり、だからこそ、今このタイミングで一歩を踏み出すことには、計り知れないほどの価値が眠っています。それは「先行者利益」と呼ばれるものです。
なぜ「今」なのか?
新しい市場やテクノロジーが登場した時、最も大きな利益を得るのは、いつの時代も、まだ誰もその価値に気づいていない早い段階でリスクを取り、挑戦した人々です。
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注目度の高さと希少性:
まだインフルエンサーによるNFT発行事例が少ない今、新しい取り組みはそれだけでニュースになり、大きな注目を集める可能性があります。市場が成熟し、誰もが当たり前にNFTを発行する時代になれば、その他大勢の中に埋もれてしまうかもしれません。
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熱量の高いコミュニティの形成:
いち早くNFTの世界に興味を持つファンは、情報感度が高く、非常に熱心なコアファンである可能性が高いです。こうした初期のサポーターと共に試行錯誤しながらコミュニティを築き上げる経験は、何にも代えがたい財産となります。
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試行錯誤が許される環境:
まだ「正解」がないからこそ、様々な実験や挑戦が許容される雰囲気があります。失敗すらも、コミュニティにとっては貴重な学びや物語になります。市場が成熟すると、ユーザーの目も肥え、より完成度の高いものが求められるようになります。
もちろん、先陣を切ることにはリスクも伴います。前例がないため手探りで進むしかなく、技術的なハードルや、予期せぬトラブルに直面することもあるでしょう。しかし、私が多くのプロジェクトを見てきた経験上、この初期段階での試行錯誤から得られる知見や、そこで生まれたファンとの強固な絆は、後からお金では決して買えない、最も価値のある資産になると断言できます。
これからのNFT活用の広がり
NFTの可能性は、デジタルアートや会員権だけに留まりません。今後、インフルエンサーの活動と結びつく形で、さらに多様な活用法が生まれてくるはずです。
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リアルとの融合(フィジタル):
NFT保有者限定で、サイン入りの物理的なグッズや、特別なイベントへの招待状を送るなど、デジタル(NFT)とフィジカル(現実のモノ・コト)を結びつけた体験価値の提供。
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メタバースとの連携:
アバターが活動する仮想空間「メタバース」で、NFTが特別なアイテムやファッションとして機能したり、保有者だけが入れる特別なエリアの鍵になったりする。
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プロジェクトへの貢献証明:
インフルエンサーのプロジェクトを手伝ったり、コミュニティで積極的に活動したりしたファンに対して、その貢献を称える特別な記念NFT(SBT:譲渡不可能なトークン)を付与する。
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地域活性化との連携:
インフルエンサーが特定の地域とコラボレーションし、その土地を訪れないと手に入らない観光記念NFTを発行するなど、地方創生に貢献するモデル。
これらの可能性を考えていると、インフルエンサーが単に個人の発信力を競う時代から、ファンや社会を巻き込み、どれだけユニークで価値のある「体験」や「経済圏」をデザインできるかを競う時代へと、大きな転換点を迎えていることを実感します。
10.新しいテクノロジーとインフルエンサーの未来
ここまで、NFTがインフルエンサーにもたらす様々な可能性について見てきました。新しい収益源、ファンとの深い絆、そしてWeb3.0という新しいインターネットの潮流。これらは、インフルエンサーという存在のあり方を、根本から変えてしまうほどのインパクトを持っています。
テクノロジーは、いつの時代もクリエイターの表現の幅を広げ、社会との関わり方を進化させてきました。かつて活版印刷が一部の権力者のものだった知識を大衆に解放したように、SNSが誰もがメディアになれる道を切り拓いたように、NFTとブロックチェーンは、クリエイターが自らの価値を、誰にも搾取されることなく、直接ファンに届けられる道を拓こうとしています。
これからのインフルエンサーに求められるのは、もはや単に面白いコンテンツを作る能力だけではありません。
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コミュニティ・デザイナーとしての能力:
ファンを単なる視聴者ではなく、共に価値を創造するパートナーとして捉え、彼らが熱狂し、貢献したくなるような「場」や「仕組み」をデザインする力。
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経済圏の創造主としての能力:
自身の世界観やブランドを核として、NFTを活用した独自の経済圏を創り出し、持続可能な活動の基盤を築き上げる力。
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テクノロジーへの探究心:
Web3.0のような新しい技術の波を恐れるのではなく、その本質を理解し、自分の活動にどう活かせるかを常に考え、試行錯誤を続ける探究心。
私が思うに、NFTはインフルエンサーにとっての「リトマス試験紙」のようなものなのかもしれません。フォロワー数という、時には虚像にもなり得る数字の裏側にある、「本物の熱量」や「ファンの絆の強さ」が、NFTの価値として可視化されてしまうからです。だからこそ、これまで真摯にファンと向き合い、独自の価値を提供し続けてきたインフルエンサーほど、この新しい世界で大きな輝きを放つことになるでしょう。
もちろん、未来がどうなるかを正確に予測することは誰にもできません。しかし、一つだけ確かなことがあります。それは、価値の尺度が「数」から「熱量」へ、「中央集権」から「分散」へと大きくシフトしていく、ということです。
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「好き」が直接価値になる時代へ – インフルエンサーとファンが築く新しい経済圏
NFTというテクノロジーがもたらす変化の本質。それは、これまで曖昧だった「好き」や「応援したい」というファンの熱量が、クリエイターを直接支える、目に見える「価値」へと変わることです。プラットフォームという巨大な中間業者を介さず、インフルエンサーとファンの間で、価値と感謝がダイレクトに行き交う。そんな新しい経済圏が、今まさに生まれようとしています。
インフルエンサーにとって、これは自身の活動の主導権を取り戻す、大きなチャンスです。アルゴリズムに翻弄されることなく、自身のクリエイティビティと、ファンとの絆の深さで勝負できる時代がやってきます。そしてファンにとっては、単なる消費者から、クリエイターの夢を共に追いかける「共犯者」へと、その立ち位置を変える機会です。
もちろん、法整備の遅れや価格変動のリスクなど、乗り越えるべき課題はまだたくさんあります。しかし、テクノロジーの進化は誰にも止められません。大切なのは、この変化の波にただ飲み込まれるのではなく、その本質を理解し、自分たちの未来をより良くするためにどう乗りこなしていくかを考えることです。
インフルエンサーとファンが手を取り合って、独自の文化と経済を築き上げていく。NFTはそのための、無限の可能性を秘めたキャンバスです。この新しいキャンバスに、あなたはどんな未来を描きますか?


