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動画制作の「企画書」完全テンプレート|クライアントの心を掴み、プロジェクトを成功に導く

2025年12月18日

 

「渾身の動画を納品したのに、クライアントの反応が芳しくない」「何度も修正が入り、プロジェクトが炎上してしまった」…。動画制作の現場で、こうした苦い経験を持つディレクターやマーケティング担当者は少なくないのではないでしょうか。私自身もWeb業界で多くのプロジェクトに関わる中で、予算と時間をかけた動画が期待した成果に繋がらず、頭を抱えた経験が一度や二度ではありません。

なぜ、このような悲劇が起きてしまうのか。その原因の多くは、撮影や編集のフェーズではなく、プロジェクトの最上流、すなわち「企画書」の詰めの甘さにあります。クライアントの「なんとなくカッコいい感じで」という抽象的な要望を鵜呑みにし、完成形のイメージを共有しないままプロジェクトを発進させてしまう。これこそが、手戻りと失敗の最大の要因です。

逆に言えば、クライアントの心を掴み、プロジェクトチーム全員が同じゴールを目指せる詳細な企画書さえあれば、動画制作の成功率は劇的に高まります。ここでは、単なるテンプレートの紹介に留まらず、私が現場で培ってきた「なぜその項目が必要なのか」「どう書けばクライアントの信頼を得られるのか」という実践的な知見を交えながら、プロジェクトを成功に導くための「勝てる企画書」の作り方を徹底的に解説します。

 

1. なぜ動画制作に詳細な企画書が必要なのか

動画制作における企画書は、単なる「提案資料」ではなく、プロジェクト全体の「設計図」であり、クライアントと制作チームの「共通言語」です。

建築に例えるなら、設計図なしに家を建てるようなものです。現場の職人(撮影・編集スタッフ)は、どんな家(動画)を建てればいいか分からず、施主(クライアント)の曖昧なイメージだけを頼りに作業を進めることになります。その結果、完成した家は「思っていたものと違う」となり、大規模な作り直し(修正)が発生するのです。

私にも苦い経験があります。以前、あるクライアントから「とにかく若者に刺さる、エモい動画を」という依頼を受けました。当時はまだ経験が浅く、企画書もそこそこに「エモい」の解釈を制作チーム内でなんとなく共有し、撮影・編集を進めてしまったのです。結果、完成した動画は「暗すぎる」「何を言いたいのか分からない」と差し戻され、追加の撮影と再編集で予算も納期も大幅に超過してしまいました。

この失敗から学んだのは、企画書とは「認識のズレ」をなくすための契約書にも等しいということ。詳細な企画書を作成するプロセスは、クライアントの頭の中にある抽象的なイメージを、制作チームが実行可能なレベルまで具体化・言語化する作業そのものなのです。

詳細な企画書の有無がプロジェクトに与える影響は、計り知れません。

 

項目 企画書が曖昧な場合 (失敗プロジェクト) 詳細な企画書がある場合 (成功プロジェクト)
認識の共有 クライアントと制作側の「完成イメージ」がズレたまま進行する。 全員が同じゴール(完成形)を明確にイメージできる。
プロジェクト進行 撮影現場や編集段階で「これも必要だった」「イメージと違う」という手戻りが多発する。 設計図通りに作業が進むため、進行がスムーズ。問題が発生しても企画書を基に判断できる。
コストと納期 度重なる修正により、追加予算が発生し、納期も遅延する。 予算内で最適なクオリティを追求でき、スケジュール通りに納品できる。
成果 目的が曖昧なため、完成した動画が誰にも刺さらず、成果(売上や認知)に繋がらない。 設定した目的に対して、最短距離で成果を出せる動画が完成する。

 

このように、企画書はプロジェクトの道しるべ です。この精度が、プロジェクトの成否を分けるのです。

こちらも読まれています:動画制作における「音」の演出術|映像の価値を倍増させるサウンドデザイン
 

2. 目的(KGI/KPI)とターゲットを明確にする

動画制作の企画書で、最も重要かつ、絶対におろそかにしてはならないのが、この「目的」と「ターゲット」のセクションです。

「なぜ、この動画を作るのか?」「誰に、何を感じてほしいのか?」

この問いに即答できなければ、そのプロジェクトは高い確率で失敗します。「競合がやっているから」「流行っているからバズらせたい」といった動機は、目的ではありません。それは単なる「願望」です。

優れた企画書は、動画制作をビジネスの課題解決手段として位置づけます。そのためには、まずビジネス上の最終ゴール(KGI)と、動画が担うべき中間指標(KPI)を明確に定義し、クライアントと合意する必要があります。
 

ビジネスの目的 KGI (最終目標) の例 動画が担うKPI (中間指標) の例
新商品の認知拡大 発売後1ヶ月の指名検索数 〇〇%増 ・動画の再生回数:100万回
・SNSでのインプレッション数:500万
リード(見込み客)獲得 動画経由の資料請求数 月間〇〇件 ・動画からLPへの遷移率:〇〇%
・動画経由のコンバージョン率:〇〇%
採用活動の強化 採用サイトからのエントリー数 〇〇%増 ・採用動画の完全視聴率:〇〇%
・動画視聴後のエントリーボタンクリック数
ブランディング ブランド好意度のアンケート結果 〇〇ポイント増 ・動画の視聴維持率
・SNSでの好意的なコメント数、シェア数

 
目的(KGI/KPI)が定まったら、次にその目的を達成するために「誰に」届けるのか、ターゲット(ペルソナ)を徹底的に具体化します。

「20代女性」といった曖昧なターゲット設定では、誰の心にも響きません。「誰の」課題を解決する動画なのかを、クライアント以上に深く理解し、解像度の高いペルソナを描き出す必要があります。
 

ペルソナ設定の具体例(BtoBサービスの場合)
基本情報 田中 誠(35歳・男性) / 中堅メーカーのマーケティング部門・課長職
業務上の課題 ・従来の広告手法(展示会や雑誌広告)の効果が薄れてきている。
・上層部からは「Webマーケを強化しろ」と言われるが、何から手をつけていいか分からない。
・部下の育成にも追われ、新しい施策を学ぶ時間がない。
情報収集の手段 ・通勤中にビジネス系ニュースアプリやSNS(X, Facebook)をチェック。
・具体的なノウハウはWeb検索や専門メディアで調べる。
動画に求めること ・自社の課題に近い「成功事例」を知りたい。
・「明日から使える」具体的なノウハウを短時間でインプットしたい。

 
ここまで具体化できて初めて、「田中さん(ペルソナ)に響く動画とは何か?」という視点で、次のステップであるコンセプトやメッセージを考えることができるのです。


 

3. コンセプトとコアメッセージの言語化

目的とターゲットが定まったら、次はその動画の「核」となるコンセプトと、視聴者に最も伝えたいコアメッセージを言語化します。

コンセプトとは「動画の基本的な考え方や方向性」を示すものです。例えば、「専門用語を使わず、中学生でも理解できるDXの重要性」「退屈な日常に、小さな非日常をプラスする商品の魅力」といった、動画全体を貫く「背骨」のようなものだと考えてください。

コアメッセージとは「ターゲットが動画を見終わった後に、必ず心に残っていてほしい一言」です。多くの動画は、情報を詰め込みすぎて何を言いたいのか分からなくなっています。動画の尺が何分であれ、伝えるべき核心的なメッセージは一つに絞り込むべきです。

例えば、先ほどのBtoBサービスのペルソナ(田中さん)に向けた動画を制作する場合、以下のように設定できます。
 

  • 目的: サービス導入のリード獲得(資料請求)
  • ターゲット: Webマーケの知見がなく、何から手をつけるべきか悩んでいる中堅企業の管理職
  • コンセプト: 「複雑なWebマーケティングを、ワンストップで『お任せ』できる安心感と実績の提示」
  • コアメッセージ: 「もう、一人で悩まない。あなたの会社のWeb担当部門になります。」

 
このコンセプトとコアメッセージが、動画のトーン&マナー(トンマナ)、ナレーションの口調、BGMの選定、そして次のステップであるストーリーボードの全ての基盤となります。
 
(経験談)
私が以前担当したプロジェクトで、このコアメッセージの策定にクライアントと2週間もの時間をかけたことがあります。クライアントは当初「多機能性」や「低コスト」を訴求したいと話していました。しかし、ペルソナ(多忙な管理職)のインサイトを深掘りした結果、彼らが本当に求めているのは「機能の多さ」ではなく、「面倒なことを丸投げできる『手軽さ』と『安心感』」であることが分かりました。そこでコアメッセージを「導入実績No.1の『お任せ』DXサポート」に振り切った結果、その後の動画制作は一切ブレがなく、KPIも大幅に達成することができました。この経験から、コンセプトとメッセージの言語化は、時間をかけてでもクライアントと徹底的にすり合わせる価値があると確信しています。
 

4. ストーリーボードで映像の完成形を共有

目的、ターゲット、コンセプトが固まったら、いよいよそれらを具体的な映像プランに落とし込みます。そのための設計図が「ストーリーボード」です。

ストーリーボード(絵コンテや字コンテとも呼ばれます)は、動画の完成形を時系列で視覚化したものです。これが無いまま撮影に入るのは、地図を持たずに航海に出るようなもの。撮影現場では「何を」「どのように」撮ればいいか分からず、編集段階では「必要なカットが足りない」という最悪の事態に陥ります。

クライアントにとっても、ストーリーボードは非常に重要です。テキストベースの企画書だけでは、映像の具体的なイメージは伝わりません。ストーリーボードを用いて「完成する動画はこういうものです」と視覚的に提示することで、クライアントは初めて安心してプロジェクトを任せることができます。

ストーリーボードには、最低限以下の要素を盛り込む必要があります。 

シーンNo. ビジュアル (映像) 音声 (ナレーション / セリフ / BGM) テロップ (字幕) 秒数 (尺)
1 (例)オフィスで頭を抱える田中さん(ペルソナ)。デスクには大量の資料。 NA: 「Webマーケティング、何から手をつければ…」
BGM: 悩ましげ、焦燥感のあるもの
「時間がない」「成果が出ない」 0:00-0:05
2 (例)PC画面に表示される弊社サービスのロゴ。田中さんの表情がハッとする。 NA: 「その悩み、〇〇(サービス名)が全て引き受けます」
BGM: 明るく、解決感を出すものに転調
【コアメッセージ】
もう、一人で悩まない。
0:06-0:10

 
ビジュアル欄は、精緻なイラストである必要はありません。簡単な棒人間や、イメージに近い参考写真を貼り付けるだけでも十分です。重要なのは、「どの順番で」「どんな情報が」「何秒間」表示されるのかを、全員が共通認識として持つことです。

このストーリーボードをクライアントと徹底的にレビューし、合意を得ることで、その後の撮影・編集作業が驚くほどスムーズに進みます。「あの時、こう決めましたよね」という明確なエビデンス(証拠)にもなるため、制作側を守る盾にもなるのです。

参考ページ:バーチャルプロダクション入門|Unreal Engineが変える動画制作の未来 

5. 参考動画(リファレンス)の選び方と提示方法

ストーリーボードで映像の「設計図」を作ると同時に、映像の「雰囲気」、すなわちトーン&マナー(トンマナ)の共通認識を作るために不可欠なのが、参考動画(リファレンス)です。

「カッコいい感じ」「エモい感じ」といった抽象的な言葉の解釈は、人によって180度異なります。このズレを埋める最も効率的な方法が、「この動画の、この部分のような雰囲気です」と実例を見せることです。

ただし、リファレンスの選び方と提示方法には細心の注意が必要です。 

(経験談)
リファレンス提示でよくある失敗が、「この動画、バズってるから参考に」とURLだけを投げることです。これでは、制作側は「どの要素を」参考にすれば良いのか分かりません。BGMなのか、テンポなのか、色味なのか、それとも出演者なのか。

以前、クライアントから「このAppleのCMみたいに」とリファレンスを提示されたことがあります。しかし、そのCMは莫大な予算と世界的なクリエイターが手掛けたもの。クライアントの予算感とはかけ離れていました。このように、単に「好き」という理由だけでリファレンスを選ぶと、現実的でない期待値を生み出してしまいます。

リファレンスを提示する際は、「なぜそれを選んだのか」「どの要素を参考にするのか」を必ず言語化し、分解して共有する必要があります。 

リファレンスの提示方法 悪い例 ❌ 良い例 ✅
提示の仕方 「この動画みたいにしてください」とURLだけを送る。 要素ごとに複数のリファレンスを提示し、参考にするポイントを明記する。
言語化の例 「全体的にオシャレな感じで」 色調: A動画(URL)の「彩度を抑えた、青みがかったクールな色味」
BGM: B動画(URL)の「テンポの良い、エレクトロ系のBGM」
テロップ: C動画(URL)の「シンプルで可読性の高いゴシック体」
予算との関係 予算を無視して、超大作CMをリファレンスにする。 予算内で実現可能なクオリティラインのリファレンスを選定する。

 
このように、リファレンスを「分解」して提示することで、制作チームはクライアントの望むトンマナを正確に理解し、再現することができます。これは、動画のクオリティを担保する上で極めて重要なプロセスです。

 

6. 撮影場所、キャスト、スケジュールの具体化

企画書の前半で「何を」作るかを定義したら、後半では「どうやって」実現するか、具体的な実行計画(ロジスティクス)を詰めていきます。

どんなに素晴らしいストーリーボードが書けても、それを実現するリソース(場所、人、時間)が確保できなければ絵に描いた餅です。クライアントに対しても、「この計画は実現可能である」ことを示す責任があります。

撮影場所(ロケーション)

ストーリーボードで描いた世界観を実現できる場所を選定します。

  • オフィスのシーン: クライアントの実際のオフィスで撮影可能か? もし不可の場合、撮影スタジオやレンタルスペースを借りる必要があるか?
  • 屋外のシーン: 道路使用許可や施設の使用申請は必要か? 天候に左右されるリスクは?
  • ロケハン (ロケーション・ハンティング): 事前に撮影場所を下見し、撮影アングル、照明、電源、控室の有無を確認する必要があります。ロケハンの工数もスケジュールと予算に組み込みます。

キャスト(出演者)

動画の「顔」となるキャストの選定は、動画の印象を大きく左右します。

  • プロの役者/モデル: 演技力や表現力は安定しているが、キャスティング費用(オーディション、出演料)が発生する。
  • 社員モデル: リアル感や親近感を出しやすいが、演技が素人っぽくなるリスクがある。また、撮影当日のスケジュール調整が難しい場合がある。
  • ターゲット層: ペルソナに近い年齢、性別、雰囲気のキャストを選ぶことが重要。

スケジュール(制作進行表)

プロジェクト成功の鍵は、厳密なスケジュール管理にあります。いつまでに何を決め、いつ撮影し、いつ納品するのかを明確に可視化します。
 
(経験談)
スケジュール作成で最も重要なのは「バッファ(予備日)」を設けることです。動画制作は「起こり得るトラブルの宝庫」です。私自身、撮影当日に大雨が降ってロケが中止になったり、メインキャストがインフルエンザで来られなくなったり、編集データが飛んでしまったりと、数々の修羅場を経験してきました。

「順調に進めばこの日程」という最短のスケジュールを提示するのはプロの仕事ではありません。天候不良、機材トラブル、クライアントの確認遅れなど、予測可能なリスクをあらかじめ盛り込んだ、現実的なスケジュールを提示することが、クライアントの信頼に繋がります。

【スケジュール例】

  1. 〇月〇日~〇月〇日: 企画書作成・提出
  2. 〇月〇日: 企画決定(クライアント承認)
  3. 〇月〇日~〇月〇日: ストーリーボード作成・確定
  4. 〇月〇日~〇月〇日: ロケハン・キャスティング
  5. 〇月〇日: 撮影当日(予備日:〇月〇日)
  6. 〇月〇日~〇月〇日: オフライン編集(仮編集)
  7. 〇月〇日: 仮編集版 提出(クライアント確認①)
  8. 〇月〇日~〇月〇日: 修正対応・オンライン編集(テロップ、BGM挿入)
  9. 〇月〇日: 完パケ(最終版) 提出(クライアント確認②)
  10. 〇月〇日: 最終納品
     

このように、各フェーズの期限と、特にクライアントの「確認・承認」が必要なタイミングを明記することが重要です。
 
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7. 動画制作の概算見積もりと予算の内訳

クライアントが企画書で最も注視する項目の一つが「予算」です。ここで不信感を与えてしまうと、どんなに良い企画も承認されません。

最悪なのは、「動画制作一式 〇〇万円」といった、根拠のない「どんぶり勘定」の見積もりです。これではクライアントは「なぜこの金額なのか?」「どこか削れないのか?」と不安になります。

信頼を得るための見積書は、「何に」「どれくらいのコストが」かかるのかを明示した、透明性の高い内訳が不可欠です。
 

大項目 中項目 (内訳例) 備考 (なぜ必要か)
企画・構成費 プロジェクトマネジメント費 全体の進行管理、クライアントとの折衝
企画構成・シナリオ作成費 コンセプト設計、ストーリーボード作成
撮影費 ディレクター人件費 撮影現場の総指揮
撮影スタッフ人件費 (カメラマン、照明、音声) 〇名 × 〇日(拘束時間)
撮影機材費 (カメラ、レンズ、照明、マイク) クオリティに応じた機材選定
スタジオ・ロケ地費用 レンタルスタジオ代、ロケハン費用
編集・MA費 オフライン・オンライン編集費 カット編集、テロップ、カラーグレーディング
BGM・効果音(SE)費 商用利用可能な音源ライセンス料
ナレーション費 ナレーター手配、スタジオ収録費
その他経費 交通費、車両費、予備費 不測の事態に備えたバッファ(予算の5-10%など)

 

このように内訳を明示することで、クライアントは「なぜこの金額が必要なのか」を納得できます。また、「もし予算を削るなら、BGMのランクを下げるか、撮影日数を1日に圧縮するか」といった、クオリティとコストのバランスを考慮した建設的な議論が可能になります。

予算は「松・竹・梅」の3パターンを提示するのも有効な手段です。「梅(最低限プラン)」「竹(推奨プラン)」「松(ハイクオリティプラン)」を見せることで、クライアントは選択肢を持つことができ、制作側が推奨する「竹」プランに着地しやすくなる傾向があります。

関連記事はこちら:動画制作における「音響心理学」|耳から視聴者の感情をハックする方法
 

8. プロジェクトチーム(座組)の紹介

動画制作は一人ではできません。多くの専門スタッフが関わるチームスポーツです。クライアントにとっては、「誰が」このプロジェクトを担当し、「誰に」連絡すれば良いのかが明確であることは、大きな安心材料となります。

企画書のこのセクションでは、プロジェクトの「座組(ざぐみ)」、すなわち体制図を明確に示します。

 

(経験談)
私がディレクターとして関わるプロジェクトでは、必ずこの座組を提示します。特に重要なのは、クライアント側の担当者(窓口)も体制図に組み込むことです。制作側のPM(プロジェクトマネージャー)と、クライアント側の責任者。この2つの窓口が明確であれば、コミュニケーションは非常にスムーズになります。

逆に、クライアント側の窓口が曖昧で、「A部署のBさん」「B部署のCさん」など複数のところからバラバラに指示が飛んでくるプロジェクトは、ほぼ確実に混乱します。企画書の段階で「今回のプロジェクトの窓口は、〇〇様にお願いできますでしょうか?」とオフィシャルに確認・固定することが、円滑な進行の秘訣です。

 

役割 担当業務 担当者 (例)
クライアント側
プロジェクトオーナー 最終意思決定、予算承認 (クライアントの部長クラス)
プロジェクト窓口 制作側との各種調整、素材提供、確認業務 (クライアントの担当者様)
制作側
プロジェクトマネージャー (PM) クライアント窓口、全体進行管理、予算・品質管理 (制作会社の営業/PM)
ディレクター 企画演出、シナリオ作成、撮影・編集の総指揮 (制作会社のディレクター)
撮影・編集スタッフ 撮影、照明、音声、編集実務 (社内スタッフ or 外部パートナー)

 
可能であれば、制作側の主要メンバー(PMやディレクター)の簡単なプロフィールや過去の実績(「〇〇業界の動画制作実績多数」など)を添えると、クライアントの「この人たちに任せて大丈夫か?」という不安を「この人たちなら信頼できる」という期待に変えることができます。


 

9. 企画書のデザインと見せ方の工夫

企画書の内容(ロジック)がどれほど完璧でも、その「見せ方(デザイン)」が稚拙だと、クライアントの心を動かすことはできません。

ここで言うデザインとは、派手な装飾や奇抜なレイアウトのことではありません。「情報を、いかにストレスなく、正確に、魅力的に伝えるか」という設計思想そのものです。

テキストがぎっしり詰まった、数十ページの企画書。あなたがクライアントなら、それを隅々まで読み込む気になれるでしょうか? おそらく、最初の数ページで読む気が失せてしまうはずです。

企画書は「読ませる」ものではなく、「見せる」ものです。特に動画というビジュアルコンテンツの企画書であれば、なおさら視覚的な工夫が求められます。

可読性を高める基本的な工夫

  • 適切な余白: 詰め込みすぎはNG。余白を十分に取り、視線の「逃げ場」を作る。
  • フォント: 可読性の高いフォント(例:Noto Sans JP, ヒラギノ角ゴ)を選び、サイズも適切に(小さすぎない)。
  • 色の使い方: 色を使いすぎない。ベースカラー、メインカラー、アクセントカラーの3色程度に絞り、アクセントカラー(強調したい部分)を効果的に使う。
  • 箇条書き・番号付きリスト: 情報を整理し、テンポよく読ませるために積極的に活用する。

視覚的な説得力を高める工夫

  • ビジュアルの挿入: ストーリーボードだけでなく、リファレンス動画のキャプチャ画像、ロケ地候補の写真、キャスト候補の写真など、完成形をイメージさせるビジュアルを積極的に挿入する。
  • 図解・グラフ: 複雑な情報(ターゲットの属性、市場データ、スケジュールなど)は、テキストで説明するのではなく、シンプルなグラフや図で視覚化する。
  • ワンスライド・ワンメッセージ: プレゼンテーション資料の基本ですが、1ページにあれもこれもと情報を詰め込まず、伝えたい核心的なメッセージは1ページに1つに絞る。

 

(経験談)
私が企画書を作成する際、最も時間をかけるのが「表紙」と「目的・ターゲット」のページです。表紙で「おっ、何か面白そうだ」と期待感を抱かせ、最初の目的・ターゲットのページで「ああ、我々のことを深く理解してくれている」と信頼感を持ってもらう。この「最初の掴み」に成功すれば、その後の具体的なプランも前向きに聞いてもらえます。

逆に、デザインが崩れていたり、誤字脱字が多かったりする企画書は、それだけで「仕事が雑な会社だ」というレッテルを貼られてしまいます。企画書のデザインは、プロジェクト全体のクオリティをクライアントに約束する「宣言」でもあるのです。
 

10. 承認を得て、スムーズな動画制作を実現する

完璧な企画書が完成したら、それで終わりではありません。最も重要なプロセス、「クライアントの承認を得る」作業が残っています。

企画書をメールで送付して「ご確認ください」で済ませてしまうのは、最悪のパターンです。なぜなら、クライアントが企画書のどの部分を重要と捉え、どの部分に懸念を抱いているのかが分からないからです。

企画書は、必ず対面またはWeb会議の場で、自分の言葉でプレゼンテーションする必要があります。このプレゼンテーションの場は、単なる「説明会」ではなく、「クライアントとの最終すり合わせ」の場です。

プレゼンテーションの目的

  1. 熱量の伝達: 企画書に込めた「このプロジェクトを成功させたい」という熱量や意図を、テキストでは伝わらない声のトーンや表情で伝える。
  2. 認識のズレの最終確認: 「我々の解釈は、御社の意図とズレていませんか?」を直接確認する。
  3. 懸念点の吸い出し: クライアントが口に出さないまでも感じているであろう不安や疑問(「この予算で本当にこのクオリティが?」「スケジュールがタイトすぎないか?」)を、その場で引き出し、解消する。

 

(経験談)
以前、あるプロジェクトの企画プレゼンで、クライアントの担当者様がストーリーボードのある一点をじっと見つめていることに気づきました。私は「何か懸念点がありますか?」と尋ねました。すると、「ここの表現、競合のA社と少し似てしまうかもしれない」という本音を引き出すことができました。

もし、企画書をメールで送付するだけだったら、その懸念は解消されないまま制作が進行し、編集の最終段階で「やはりA社と似ているから修正してほしい」という最悪の手戻りが発生していたかもしれません。プレゼンの場で「その場で議論し、その場で解決する」ことで、未然にリスクを回避できたのです。

この「すり合わせ」を経て、クライアントから正式な「承認(発注書や契約書への捺印)」を得て初めて、企画書は「提案資料」から「プロジェクトの公式な設計図」へと昇格します。ここから先は、この承認された企画書を絶対的な拠り所として、制作チームは自信を持って撮影・編集に進むことができるのです。

 

企画書は「成功の設計図」:実行可能な計画がプロジェクトを動かす

動画制作のプロジェクトは、撮影や編集といった「目に見える作業」よりも、その前段階である「目に見えない計画」の質によって、その成否がほぼ決まってしまいます。

ここまで解説してきたように、詳細な動画制作の企画書とは、クライアントの抽象的な「要望」を、制作チームが実行可能な「設計図」へと翻訳する作業そのものです。それは同時に、クライアントの不安を取り除き、「このチームに任せれば大丈夫だ」という信頼関係を構築するための最強のコミュニケーションツールでもあります。

曖昧な計画は、曖昧な動画しか生み出しません。手戻りや炎上を防ぎ、クライアントの期待を超える成果を出すために、企画書の作成にこそ最大のエネルギーを注ぐ必要があります。

次のプロジェクトから、ぜひ以下の点を意識してみてください。 

  1. まず「KGI/KPI」と「ペルソナ」を、クライアントと合意できるまで徹底的に言語化する。
  2. ストーリーボードとリファレンスを用いて、「完成形のイメージ」をクライアントと視覚的に共有する。

 
この2点を実行するだけでも、あなたの動画制作プロジェクトの成功確率は、劇的に向上するはずです。

関連資料:飲食店の「人間関係」|最高のチームを作るためのコミュニケーション術